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娘は思春期、義父は認知症、本人は無職、どうすれば

幼い子供の物語(ショートショート)吾輩は猫、ではなく時計である

幼い子供の物語(ショートショート

吾輩は猫、ではなく時計である

 

吾輩は時計である。

 

名は、まだない。

 

どこで生まれたか見当がつかぬ。

 

何でも薄暗いじめじめした工場で時を刻むために生まれた。

 


ある日のこと。

 

吾輩は元気に店先に陳列されていた。

 

吾輩はあるご婦人の目に留まった。

 

ご婦人がしきりに吾輩を見つめる。

 

右の時計を見、吾輩を見、左の時計を見、また吾輩を見る。

 

ご婦人は吾輩のことをたいそう気に召されたようだ。

 

吾輩はすぐに、735円で購入された。

時を奏で続ける

 

それ以来、吾輩はご婦人の家で時を奏(かなで)てきた。

 


ご婦人に見守られながら、時を奏でてきたのだ。

 


吾輩は時を奏で続けていた。

 


ある年、ご主人様とご婦人の間に、新しい命が宿った。

 

新しい命、女の子は、静かにおしとやかに育っていった。

 


吾輩は時を奏で続けていた。

 


またしばらくすると、ご主人様とご婦人の間に、再び新しい命が宿った。

 

新しい命、2番目の女の子は、元気にやんちゃに育っていった。

 


吾輩は時を奏で続けていた。

 

 

ところで、この家のご主人様は時計というものが嫌いであった。

 

ご主人様は時計の何がキライかというと、「チクタク音」がキライであった。

 

眠りにつく際に「チクタク音」が気になるという。

 

気になって気になって眠れないという。

 


吾輩の仲間は、吾輩のほかに3人いた。

 


1人は「でじたる式」で無音だった。

 

しかしもう2人は「あなろぐ式」であった。

 

ある日、ご主人様はその2人の「チクタク音」が奏でるハーモニー、というかコラボセッション、というかカンタービレにいきり立ち、その2人の「でんち」というものを外し、捨ててしまった。

 

2人は息の根を止められ、それきり動かなくなった。

 

アナログ式時計


吾輩も「あなろぐ式」であったが、まったくの無音であったため難をまぬがれた。

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そしてつい先日のことである。

 


2番目のやんちゃな娘が、しきりにワタシの顔を触っていた。

 


しきりにワタシの顔を撫でまわした。

 


吾輩のほおを撫でたかと思うと、鼻のまわりを撫でまわす。

 


なぜかパキリという音がした。

 


そして娘は、ご主人様になにかを見せていた。

 

 

時計の針を壊す

 

 


吾輩はなにが起きたのか、よくわからない。

 

 

 

吾輩は時計である



 


吾輩は今もずっと、時を奏で続けている・・・・・・。

 

 

 

 

ー 幼い子供の物語(ショートショート)了 ー

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